ヒト

「パソコン苦手でわからない」人との向き合い方 実家・会社での「パソコン教えて」に消耗しない方法

さすがに「何もしていないのに壊れた」は減ったとはいえ、まだまだ難しいと感じる人もいるパソコンの操作。得意な人とそうでない人の間でディスコミュニケーションが発生することもしばしばで、実家の両親や上司から投げかけられる、パソコンの使い方に関する質問に手を焼いている……という人だって少なくないかもしれません。

そもそも、「パソコンが苦手」という人のなかでは何が起きているのでしょう。また、身近な人から投げかけられるパソコンの質問に対して、聞かれる側はどのように向き合えばよいのか、どのように教えたらいいのか悩んだことはありませんか?

ビジネスパーソン向けのパソコン教室を主催しているマミオン有限会社の森万見子さんに、パソコンの「苦手」はなぜ発生するのか聞きました。苦手な人と得意な人が上手にコミュニケーションをとり、職場やプライベートでうまく付き合っていくためには、いったいどのようなコツが必要なのでしょうか。


森 万見子(もり・まみこ)さん
大人向けのパソコン・数学研修を行う「マミオン有限会社」代表。「現状の把握と入り口・出口の設定」「適切な粒度の学習」「学びやすい仕組み作り」等、学習者に向けた正しい学びのルートを設定のうえで、ビジネスパーソン向けのパソコン教室や、大人向け数学塾で学習支援を行っている。パソコン教室の先生としてのキャリアは20年ほど。2022年豊橋のんほいパーク、バヴァーニ名誉象主。

「パソコンが苦手」は「知らない」「怖い」「機会がない」の総体

──そもそも、「パソコンが苦手」というのはどういう状態なんでしょうか?

森さん:ひとくちに「パソコンが苦手」といっても、本当にいろいろな種類があるんですよね。なので、まずは「苦手」を考える前に、その反対である「パソコンがわかっている」状態を定義づけておきたいです。

ここでは、わかっている人というのは、「仕組みや使い方を理解して、応用して、他人に説明できる人」とします。とすると、「苦手な人」はそもそも、使い方の理解が最初からおぼつかない、何がわからないかすらわからない状態、ということになりますよね。

──そうですね。そういう人は多いと思います。

森さん:そういう場合の原因は、知識がなかったり、学習していないというのが一番大きいんです。例えば「パソコンが苦手」と話していた人が、練習したら使えるようになったとする。だったらそれは、「苦手」なのではなく「使い方を知らなかった」だけです。

──「やってないから知らなかった」という話ですね。ということは、苦手意識がある人でも、適切な学習で使えるようになるものなのでしょうか?

森さん:その可能性は十分にあると思います。別にパソコンに限った話ではなく、「苦手」というのは複合的で「触れる機会がない」「プライドが高くてできないといえない」「失敗するのが怖い」みたいな気持ちが合わさったケースがほとんどなんです。

知らないから苦手に思い、実践する機会がないからさらに苦手になる。知っているけど実践する機会がなくて、いざやった時に失敗したら嫌だからやらないとか。

──では、そういった気持ちさえ解決できれば、誰もがパソコンを使えるようになる?

森さん:いえ、そこからさらに「適切に学習できるか」というハードルもあります。「適切な学習」というのは、環境、教材、学習態度などがあわさったもの。

例えば、環境の一つには「人に助けてもらえるか、そうでないか」という軸、学習態度には「ポジティブとネガティブ」という軸があります。日本の成人のうち、自分から学習するのは3割ほどと言われているので、学習に対してネガティブな人が多いようですね。

──確かに、興味のわかない分野を勉強するのはハードルが高いですもんね。

森さん:そうですよね。でも、学習に対してポジティブな人はちゃんと学ぼうとするし、やっているうちに対象が好きになって、さらに勝手に学習するようになる。そこまで前向きじゃなくても、例えば転職や仕事のスキルアップのために必要ということであれば、やらざるを得ないということで嫌々でも自ずと学習するわけです。

でも「人に助けてもらえるから、自分はいいや」という立場の人は、最初からやらない。「パソコン教えてよ」と頼まれイライラさせられた経験がある人は、もしかすると相手がこのタイプだったのかもしれません。

▲一方、右下の「機会があれば学習する」人は、自身で学習を重ねた結果、助けてくれる人を見つける場合も

──ああ、確かにわかる気がします……。

森さん「仕事中の部下にZoomの接続の仕方を気軽に聞いてくる上司」とか「スマホの使い方を毎回聞いてくる実家の両親」とか、だいたいこれなんですよね。学習する気もないし、人にやってもらえるならそれでいいという。こういう質問をされて苦労した経験がある人も、多いかもしれません。

安易な「教えて!」で、教える方も教わる方も消耗する

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──しかし、周囲から「パソコンが得意」だと思われている人は、そういったように「便利な使われ方」をされがちですよね。そういう場合、どうコミュニケーションをとったらいいんでしょうか?

森さん:まず前提ですが、最初から学ぶ気がない人に学ぶよう働きかけるのは現実的ではありません。学びたいわけではないので、わからないことがあったら毎回聞いてきますので。

──その気がない人には何もできないんですね……。

森さん:それ以外の、「ちゃんと学びたい」というスタンスの人に対してなのですが、まず何かを教えるうえで見極めないといけないのが、相手の性格や資質、理解度です。やる気の有無や素直さ、メンタルの強弱、そして何をどこまで理解していて、どこから先がわかっていないのか。そういった点は事前確認しておく方がいいでしょう。

──確かに、「相手がどのくらいわからないのか」も重要なポイントですもんね。

森さん:あともう一つ大事なのが、わからないと言っている人の真の目的を把握することです。「これを教えて」と言っているのに、本音は「自分の代わりにやってほしい」というときもあるし、「特に深い意味はなく、ちょっと聞いてみただけ」というケースもたくさんあるんですよ

本当になんの意図もなく、目の前にあるから聞いただけで、特にそのあと何かに生かす予定もないという……。これに付き合っても仕方ないですし、相手の質問の意図や目的を知って、相手の欲しがっている回答を出せるとベストですね。

▲「ドライに教える」というと相手に悪い気がしなくもないが、その距離感がかえってお互いに優しい場合もある

──なるほど……。でも、これだけのことを素人がやるのは大変そうですね。質問をした方の意欲を問われますし、それくらいきちんと向き合うことになると質問に答える方も消耗しそう。

森さん:そうなんですよ。回答者には、さらに、相手に対する愛情が求められます。私は仕事ですので、皆さんが学習しやすいよう仕組み化したツールをつくり、それにプラスしてテクニックで各個人に最適な学習環境と教材を提供しています。受講前のゴールの擦り合わせなどご本人のやる気を引き出すようにもしています。……が、プライベートで仕事と同じように教えてくれと言われてもできないと思います。

ツールとテクニックを使わずにちゃんと教えるなら、かなり根気よく相手と付き合わなくてはいけないし、そうなると自分も相手もかなり消耗する。何かを教える場合は、まず「この相手にどれだけ付き合えるか」を考えるべきだと思います。

──結局のところ「相手への愛情の度合い」ですか……。

森さん:ドライに思われるかもしれないのですが、相手に対して特に深い愛情がないなら、双方に負担がない形で対応する方が自分にとっても相手にとっても優しいんですよ。例えば質問の意図が「パソコンの特定の機能をこの場で一回使いたいだけ」であれば、わざわざ教えるよりも自分が全部やってあげた方が話が早いですし、感謝されたりします。

あとは使い方を紙に書いて「この通りにやって、これ以外のことはしないでください」って渡すのでもいいと思います。これも、双方にとって負担が少ないので。親切に教えていたつもりなのに、いつの間にかお互いに嫌いになったら本末転倒ですし。

▲ しっかり関係性がある相手であっても、誰かがパソコンが使えるようになるまでつきっきりで面倒を見ることは「お互いにとってかなり負担が大きいと思う」(森さん)

──「最小限のコストでやってあげる」が双方にとって一番正しいというのはわかる気がします。相手だって「みっちり教えて欲しいわけでもない」場合だってたくさんあるでしょうし。

森さん:「ちゃんと教える」というのは、想像以上に覚悟がいりますからね。先ほどの前提の確認に近い話なのですが、わかっていない方はわからないところを言語化するスキルが弱い傾向があります。また、独自の言葉やマイルールを作って、それを当然と思う方もいる。周りがマイルールに合わせるべきと思っていたり。

以前知人から聞いた話ですが、上司にパソコンから書類をプリントアウトすることを「ハードコピーする」という人がいたそうなんです。指示されるたびに一度脳内で「プリントアウト」という言葉に変換をしなくてはいけないので、地味にストレスが溜まると。

──わからないこともないですが、一般的な用語ではないですし、言われる側にはちょっと不親切かもしれないですね。

森さん:そういう上司に対してちゃんと教えるということは、まず「あなたが言っている『ハードコピー』は、正確に『プリントアウト』または『印刷』といいましょう」です。

──言葉の定義だけでそれだけの苦労が。気が遠くなりそうです。

森さん:ビジネスパーソン向けの講座は、言葉の定義を間違えていたら指摘することが多いです。受講生のゴールを「会社で円滑なコミュニケーションができると共に、必要な機能を使えること」だと考えているので。円滑なコミュニケーションをするためには、周りと同じ言葉を使う必要がありますからね。

受講生も「使えるようになりたい」という意識が高いから、このような指摘をしても角が立たない場合が多いです。習う側の目的意識やどのくらいやらざるを得ないかというところを確認することで、教える手法は大きく変わるなと思います。

──とにかくまずは「本人の目的意識が一番大事」。そして学習する意欲がない人にはどうアプローチをしても伝わらないから、教える側はそこを見極めて適切に振る舞うべし、ということですね。

学習は「なにもわからない」「チョットデキル」の繰り返し

──先ほどお話に出たビジネスパーソン向け講座では、どのような生徒さんがいるんでしょうか?

森さん:仕事のため、資格が必要、転職のために通っているという方が多いですね。転職したら「データ分析して」って言われてパソコン渡されて、そこで「できない、わからない」とは言えないから教えてほしい、という方とか。

あとは「転職先で知らない機能が使われていたから、その使い方を理解したい」「新しい仕事をするにあたって、このソフトを使えなくちゃいけない」とかですね。たまに、急ぎで技術を身に着けたいのか「基礎は学びたくない。言われた機能だけがわかればいい」という方もいらっしゃるんですが……。

──確かに、そこだけわかればいいと思うのは道理かもしれないですね。なにか問題があるのでしょうか?

森さん:その機能を活用できるようにするために、前提知識が必要となる場合があります。それをきちんと体系立てて学習できればいいのですが、そういう方は「その機能」以外の基本学習をおざなりにしようとするんですよね。すると、機能を知っているが使えない、となってしまう

基礎のおさらいや練習問題を「時間がもったいない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。こういう学習方法をとる方は、その場しのぎで知識をかいつまんで、理解をしようとせずに前に進もうとするので同じようなところでつまずき、質問をしまくって周りの人にイラっとされるのではないでしょうか。

──より難しい技術を活用するためには、それよりも手前にある基礎がきちんと身についていないと応用が利かない、と。

森さん:パソコンに限らず、体系化された学習と練習問題などによる反復とは理解のための重要なポイントです。

──それくらい反復することは大事なんですね。

森さん:最初に触れたように、わかる人というのは仕組みや使い方を理解して、応用して、他人に説明できる人ですよね。ここに至るためには、試行錯誤を繰り返し、体験を積み重ねて自分の経験にしていくことが必要なんです

もし誰かにパソコンの使い方を教えないといけなくなった場合で、相手にできるようになってほしいというときは、あえて丁寧にすべて教えすぎず、相手の反応を見ながら教え方を変えるのも大事です。自主的な試行錯誤がなければ、何を教えても定着はしませんから。

──習得しようとするために試行錯誤することも大切だし、試行錯誤が反復練習になる、と。触っていればできるようになるものの、そこのモチベーションを維持するのも大変そうですね。

森さん:そこで大事になってくるのが、学習のゴールを設定することなんですよ。ゴールを設定して動機を作って、やる気を自分で整えてもらう。「やる気が湧きません」と相談してくる方がいるんですが、なにもしていなければやる気なんか湧いてくるわけがないんですよ。とりあえずゴールを設定して、あとはそのゴールに向かってやる気に頼らずたんたんと走るしかない。

それでもやる気が必要なときは、明確なデッドラインを設けて自分を追い込むのもひとつの方法です。もう少し優しい方法だと、同じような課題に取り組んでいるコミュニティに入ったり、友達と一緒に取り組むというのもいいと思います。

──確かに、あんまりやりたくないことに対してやる気が湧くのを待つというのは、ちょっと無理ですよね。無理矢理にでもやるしかない。

森さん無理矢理にでもやっていると、どこかでできるようになるタイミングが発生するんですよ。手をつけるまでは怖いんですけど、できるようになるとすごい万能感や高揚感が出てきます。そこで「あ、わかった!」と思うんですが、そのあとさらに進むと、またいきなりわからなくなる。そこをやり続けて乗り越えると経験がたまって、また理解が進むようになる。

理解とそれに伴うテンションには山と谷があるんです。ITエンジニア用語としてネットで言われている、「完全に理解した」→「なにもわからない」→「チョットデキル」(※)っていうのがあるじゃないですか

※ 「完全に理解した」=該当のシステムを使いこなすためのひと通りの基礎知識を身に着けた段階。「なにもわからない」=さらにシステムへの理解が進み、新しい課題に直面した段階。一方の「チョットデキル」は、その分野の世界的な第一人者のみが使用を許された言葉、とされている

──ありますね。製品に対する理解度の高さや熟練度で言うことが変わってくるという。

森さん:あの言い回しは私も大好きなんですよ。適切に学習を続けると「わかった!」と「なにもわからない」という山と谷が交互にやってくるんですよ。最初の「わからない」の谷を超えれば体験を繰り返すことで経験値が高くなり、新しい風景が見えるようになるんです。新しい景色が見えたときの学習者のキラキラした顔を見るのはワクワクしますね。

パソコンが得意と思われがちな人は、周囲からの「ちょっと教えて」に困ることもあると思います。が、本気で教えたくなったら、相手の特性を見ながら、学習ゴールを設計し、学習者が自然に学べる方法を考えつつ、適切な支援をし、教えすぎず体験を積ませ、経験に昇華していくのを見守るのが良いでしょう。そうでなければ割り切ってやり方を教える。とにもかくにも、最終的には自分と相手、お互いにとって負担の少ない形で接することができる道を探したいですね。

文=しげる/図版とイラスト=藤田倫央/編集=伊藤 駿(ノオト

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