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テックブログは学びを放流する場 企業ブログ運営の価値とコツをはてなに聞いた

多くのITエンジニアが自身の仕事や取り組みの成果を発信するために運営している、「テックブログ」。単なる情報発信だけでなく、ネット上にそれぞれの形で知識やノウハウが蓄積されていくことで、広いエンジニアコミュニティを築く強い地盤になっています。

そういったブログを中心にしたエンジニアコミュニティを意識して、テックブログを会社の名前で立ち上げる企業も少なくありません。企業テックブログと採用Webサイトを連携させるなど、技術だけでなく、会社の情報発信の手段としてテックブログが運用されているようです。

しかし、「更新される記事のクオリティ管理」や「毎月の公開本数を確保する」など、きちんとブログを運営するのであればやらなければいけないことは盛りだくさん。開設したはいいものの、毎日の業務をこなしながら、ブログを運営することに苦労しているテックブログの担当者も少なくないのでは?

そこで、企業テックブログ「Hatena Developer Blog」を運営している株式会社はてなに取材。2005年にブログを立ち上げ、今なお毎月平均して3〜4本程度の記事を継続的に更新し続けている同社にブログ運営のコツを聞いたところ、そこにははてなエンジニアのバリューズにつながる「学びとオープンネスへの意識」がありました。


大仲能史(おおなか・たかふみ)さん
2018年4月 中途入社。アプリケーションエンジニアとしてマンガビューワ「GigaViewer」や、Web小説サイト「カクヨム」「魔法のiらんど」の開発を担当。2019年4月よりチーフエンジニアとして技術組織全体のマネジメントにも携わる。
id:onk のはてなブログ

テックブログは、社内のアウトプット推進チームで運営

——世の中には、会社でテックブログを立ち上げたものの、試行錯誤しながら運営している担当者さんも少なくないかと思います。しかし、きちんとブログを運営していくとなると、担当者さんは考えることが多すぎて大変だと思うのですが。

大仲さん:正直に言えば、Hatena Developer Blog(以下、デベロッパーブログ)でも記事の書き手探しはそこそこ苦労しています。基本的に挙手制で執筆担当者を募るのですが、そこで「自分が書く」と名乗りを上げる人だけだと足りなくて。

——そもそも、デベロッパーブログの運営はどういった体制で行われているのでしょう?

大仲さん:メインの運営は、社内に設けられている4人の「アウトプット推進チーム」が中心になって行っています。

アウトプット推進チームは、デベロッパーブログ以外には社内外向けのエンジニアセミナーの運営などもやっていて、社内では「はてなのアウトプットを大いに盛り上げる団(HOO団)」と呼ばれています。

——エンジニアさんが中心となって運営されているんですね。運営は、チームの4人ですべてを行っているんですか?

大仲さん:ブログの運営では、アウトプット推進チームの他にはてなの編集者2名にも協力してもらっています。運営メンバーとしては合計6名です。

「Hatena Developer Blog」トップページには、エンジニア採用ページへのリンクも。公開される記事は、すべて執筆者のはてなアカウントに紐付けられる(画面スクリーンショットは2月末時点のもの)

——実際に、記事のネタだしから公開までは、どういったプロセスで行われているのでしょうか?

大仲さん:まず、立候補や運営チームからの依頼で執筆者をアサインして、最初の原稿を受け取ったら各担当者によるレビューを行います。この場で行うのは、エンジニアによる技術レビューと、広報レビューです。広報レビューは内容に応じて必要な時だけ行うので毎回ではありません。

書かれている内容に技術的な間違いがないか、「もっとこう書いたほうがわかりやすいのでは?」といったチェックを行うのが技術レビュー。「社外に出す情報に間違いがないか」を確認するのが広報レビューです。そのチェックが済んだら、最後に編集者の編集が入って、記事が公開されます。

技術・広報・編集のトリプルチェック。編集を経てより読みやすく

——それぞれの段階について詳しく伺えますか? まず、月あたりの記事の本数はどのように決められているのですか?

大仲さん:基本的には、毎月3本〜4本を目標にしています。読んでくれる方から「定期的に記事が公開されている場所だ」と認識してもらいたい気持ちもありつつ、それ以上の本数を作るのは運営側の負担も大きいので、「週1本程度」を目安に設定しています。公開スケジュールに対して執筆者を決めるのですが……。

——先ほど、書き手探しに苦労されている、というお話を伺いました。

大仲さん:フリーテーマで「誰か書いて」だと、なかなか手が挙がらないんですよね。社内勉強会で話した人だったり、ネタを持っている人に運営チームの側から声をかけに行くことも多いです。執筆者を見つけたら1〜2週間程度で初稿(編集チェックが入る前の、最初の原稿)があがってきます。

——それを担当者の皆さまでチェックしていくんですね。技術・広報チェックの他に行っている編集チェックには、どのような役割があるのでしょう。

大仲さん:一言でいうと、ここは「読みやすくするためのチェック」です。

すでに技術・広報のチェックが入っているし、はてなのエンジニアはブログを書き慣れている人も多いので、編集を通さなくても公開しようと思えばできる。でも、編集者の編集を通すと内容が圧倒的にわかりやすくなるんです

大仲さん:「てにをは」とか係り受けの調整のような日本語レベルのチェックが入ることもあれば、編集者の提案によって段落構成を変えたり、見出しを考え直したりするとか。引っかからずに読めるように段落のリード文を足したりもします。

——編集者の目線で記事が整えられる、ということですね。このプロセスが入るのは、社内に編集者がいらっしゃるはてなさんならでは、という気がします。

大仲さん:でも、もともとデベロッパーブログの記事に編集チェックは入っていなかったんです。成果はまだしっかりと確認できてないのですが、自分の文章がプロの編集者によって編集される体験は、とても勉強になりますし、書くモチベーションにも繋がっています。

他に編集の工程を入れて良かったこととして、執筆担当者がきちんと締め切りを守るようになりました。記事を書いたら技術・広報のチェックのみで公開していた時期は、制作スケジュールが遅れがちだったんです。執筆者が「より後の工程がある」ことを意識するようになった結果、締め切りを守ってくれるようになったのかもしれません。

——その頃は、締め切りを守らない人がいたら、やはり大仲さんが記事の催促に行っていたのでしょうか?

大仲さん:「今月の公開記事は0本」はさすがにマズいですが……。すでにその月の公開記事が1〜2本確保できている状況であれば、そんなに無理して書かせることもしていませんでした。基本的には良い記事を各々のペースで書いてほしいですし。

というのも、アドベントカレンダーやエンジニアイベントが重なる時期は、公開本数が4本以上に増えてしまうことがあるんですよね。なので、無理に「月単位で、公開本数を均一にする」必要はないのかな、と。

——無理して書かせることはしないものの、記事を定期的に公開して本数をキープする……。塩梅を取るのが難しそうですね。

学びと発信はセット。アウトプットの質が評価に影響も

——テックブログの方針や、運営にあたって意識していることはありますか?

大仲さん:企業がエンジニアブログを運営したり、エンジニアが個人ブログを持っていたりするのは「学んだことをまとめ直して、世の中に放流する」意識がある人が多いからだと思っています。

普段の業務のなかで学んだことを学びっぱなしにしておくのではなく、「書くこと」がすごく大事なんです。自分の経験を人に読んでもらう文章にするということは、見聞きしたことをそのまま書くのではなく、誰にでもきちんと伝わるように抽象化したり、裏を取ったりしてまとめ直さないとといけない。その過程で「学び」が定着するんです。

——そして、それを「放流する」というのは?

大仲さん:そもそも、エンジニアにはネットやエンジニアコミュニティ全体の発展を意識している人が多い気がしています。

例えば、はてなエンジニアのバリューズには「学びとオープンネス」というものがあります。我々はインターネットを通じて様々なことを学んで、その学んだことを使ったWebサービス開発で事業を展開できている。だから、自分が学んだことをネットに放流するのは当然。「学びのサイクル」を回していくことが定着しています。

▲はてな社のエンジニア採用資料より。エンジニアバリューズには「プロダクト志向」「コラボレーション」「おもしろさ」と並び、最後に「学びとオープンネス」が定められている

——「インプットとアウトプットをセットで行うのは当たり前」という感覚なのですね。

大仲さん:ITエンジニアだったら、誰もが一度は「困ったことがあって調べ物をしたら、誰かの記事でそれが解決した」経験をしていると思います。開発のときだって、オープンソースのライブラリを山のように使わないと何も作れないですし。

だからエンジニアはソースコードを公開してくれている人に対するリスペクトが強いし、「自分もそうなりたい」という憧れを持っている人が多いと思うんですよね。そういった人に近づくための手段の一つがブログなのかな、と。

——知識の定着と、インターネットやエンジニアカルチャーへの貢献が大きな目的、ということですね。そう考えるとデベロッパーブログは、はてなさんの文化である「学びとオープンネス」を体現した場所なのかもしれませんね。

大仲さん:そもそも、はてなが「学んだことをアウトプットするのは当然」という文化になったのも、弊社の創業者である近藤(近藤淳也さん、現在は同社取締役)の体験によるものです。過去に近藤がPerlのエンジニアコミュニティに参加しており、そこでの経験から「自分はエンジニアコミュニティからなにかを受け取って、ものを作っている」という意識を持つようになった、と聞いています。

はてなでは「学びのアウトプットは当然のこと」という前提のもとでエンジニアの評価も行うので、アウトプットの内容や質がエンジニアの評価軸のひとつになっています

▲はてな現取締役・近藤淳也さん(はてなid:jkondo)によるエントリー「はてなに入った技術者の皆さんへ」は、現在に至る同社技術者の指針にもなっている

——ということは、デベロッパーブログで記事を書けば書くほど、お給料が上がっていく……?

大仲さん:もちろん数を書けばいい、というわけじゃないです(笑)。まとめ方がいいとか、学びをうまく抽出できているかとか、記事の内容も評価に影響します。なので、記事を書くことがそのまま報酬に直結するわけではないです。

そもそもはてなのエンジニアは、情報発信に積極的なんだと思います。ブログサービスの会社なので個人ブログを持っている人が多いですし、エンジニアにとってたくさんの人に読まれた記事は自分の名刺替わりになったりもします。デベロッパーブログで記事を書くということは、エンジニアとして「打席に立つ」ようなものなんですよね。

「リアクションがある場」にするのがサイクルを回す第一歩

——企業のテックブログ運営にあたり、なにかコツがありましたら教えていただきたいです。

大仲さんまずは大前提として、オープンネスの文化があること。そもそもデベロッパーブログ自体、はてなの社内勉強会だけではなくて、会議やミーティングの様子を全部公開する場としてスタートしたものでした。その頃は普段の会議の録音音声を公開したりして、“へんな会社”を作ろうとしていた時期だったと聞いています。

次は、いつもの仕事のなかで学んだ内容をとにかく書き残しておくこと。社内のドキュメントでシェアしたり、個人のブログにまとめる習慣があれば、自分の学びを見つめ直す機会にもなります。書き残したものを後から見返せば、「これ、ブログに書けるんじゃないか?」という発見を得られることもあります。

そして、会社として挑戦する文化があること。見落としがちですが、日頃から新しい取り組みをしていないと、そもそもブログに書くことがなくなっちゃうんです

——確かに……! ネタ切れは切実ですが、こればっかりはブログだけを頑張っていてもしょうがない部分ですね。

大仲さん:でも、「コスパを考えるとこの程度だけど、ブログのネタにしたいから、ちょっとだけやったことがない技術にチャレンジしてみよう」とか、ブログがあることで仕事がいい方向へ働くこともあると思いますよ。発表の場があること自体にも価値があるのかな、と。

——では、手始めにできることは、自分の学びやチャレンジの内容を常日頃からメモしておくことになるのでしょうか?

大仲さん:そうですね。はてなの社内では、定期的に勉強会や成果発表会を行って、社内で個々人の学びをシェアする場を設けています。

勉強会は、人の発表や新しく書いたブログの記事をベースにして、「この取り組みを通してどんな学びを得たのか」を社員が同士でシェアする場。成果発表会は、「こんな仕事をしたよ」というのをチームごとに発表する場です。

▲2021年に行われたHatena Engineer Seminarの模様。大仲さんの登場は18分30秒付近から

大仲さんそこで自分の学びの話をして、他のエンジニアからリアクションをもらうことで、一人ひとりに「いい仕事したな」という実感を得てもらいたいんです。そうすれば、「この内容で発表したら褒めてもらえたから、社内、社外のブログに書いてみよう」と思ってくれるかもしれないですよね。

——言われてみれば、いきなり「学びをシェアして!」と言われても、自分のどのような経験が他人にとって価値があるかなんてわかりませんからね。そこで、自分の学びをカジュアルにシェアする場をたくさん設けている、と。

大仲さん:例えばアウトプットに慣れていないエンジニアでも、ブログや勉強会で自分の取り組みについてポジティブな感想やフィードバックを得ることが、学びのループのきっかけになります。

慣れていない人に対しては厚めにレビューを入れて、読んだ人の反応を引き出せそうな記事に意識して育てています。まずは、「アウトプットすると、皆が読んでくれる」体験をするのがスタートなのかな、と。

▲昨年10月のエントリー「はてなリモートインターンシップ2021の講義資料を紹介します」は、タイトルのとおり21年夏に行われた同社インターンシップの講義資料がまとめられたもの。この記事に限らず、インターンシップや勉強会の資料まとめはブログ内でもよく読まれやすい記事なのだとか

——テックブログもまずは「エンジニアのためのアウトプットの場」として機能させることが大事ですね。そして、みんながそれにリアクションをする。

大仲さん:この「自分が学んだことをアウトプットする」という経験ができるなら、手段はブログでなくてもいいんです。OSS活動はもちろん、エンジニアイベントに登壇したり、過去にははてなで技術の同人誌を作ってイベントに出展したこともありました。

加えて、最近だとYouTubeチャンネルポッドキャスト(Backyard Hatena)もはじめました。とにかくエンジニアには外の世界とのタッチポイントをたくさん持って欲しい、と思っています。

——テックブログはそもそもエンジニアの学びの場。お話を伺っていると、「広報のために始めよう!」というモチベーションでは続いていかないかもしれないな、と思ってしまいました。

大仲さん:内発的な動機づけが無いと、続けるのが大変だと思います。

デベロッパーブログの場合だと、アクセス数も見てはいるものの、数字を目標に運営する、という段階には至っていません。でも、エンジニア採用に応募してくれた方に応募のきっかけを聞くと「ブログがきっかけで」という人も少なくないんです。

▲ はてな元CTOの田中慎司さんによるエントリー「はてなのエンジニアに期待する「アウトプット」」には、「ノウハウをまとめる」「振り返ることができる」など、同社の方針として行われているアウトプットの必要性が端的にまとめられている

——数字を追っているわけではないものの、きちんと運営の結果は出ている、ということでしょうか。

大仲さん「学び続けることと、その過程で得たことをピュアともいえる態度でオープンにし続けること」という弊社CTOの言葉があります。この姿勢が、はてなのエンジニアを成長させてきたと思っています。学ぶことと、学びを通して文化に貢献する意識を、これからも大事にしていきたいですね。

文=伊藤 駿/図版とイラスト=藤田倫央/編集=ノオト

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